「農の日」とは
ノマディクスは2024年3月から、毎週水曜日を「農の日」に制定しました。農の日とは、従業員が通常の業務から離れ、農業や狩り、家の建設など、自分たちの生活の糧を直接作り出す活動に専念する日のことです。ノマディクスの共同代表、小峯の提案で始まりました。
農の日の始まりとその背景
農の日提案の発端は、2019年にまでさかのぼります。
当時、同社のビジネスは成長を続けていたものの、創業者の一人である小峯は「このままでは何のために働いているのかわからなくなる」と焦燥感を強めていました。会社の成長に合わせ社員を増やし、ビジネスの拡大が手段ではなく目的化し、いつしか「自分たちが作った会社に働かされている」という違和感に耐えられなくなっていたと言います。
「もう金を稼ぐためには働けない」
そんな葛藤を抱えながら車を運転していたある日、車窓から見えた畑の光景にビジネスの根本的な意味を見出します。
「お金を稼ぐことが目的ではなく、自分たちが生きるために必要なものを作り出すことが目的なのでは」
衣食住のすべてが金銭との交換で成り立っているからこそ、お金を稼ぎ続けなければならないことに気づいた瞬間です。さっそく小峯は、会社として畑を借りることにしました。
4年間の試行錯誤と挫折
当初は、社員の有志のみが集まって農作業を行っていました。一方で、本業のビジネスは多忙を極め、徐々に有志たちも畑にまで手が回らなくなっていきます。広大な畑の草刈りだけでも人手が足らず、一時は畑の維持をあきらめかけたこともありました。
そんな試行錯誤の4年間を経て、いまノマディクスは農作業を業務の一環であると宣言し、従業員の「農の日」への参加を義務づけました。「自分たちが生きるために必要なものを作り出すことがビジネス」なのであれば、農作業も会社業務の範疇であるという考えからです。
自然農との出合いと学び
ノマディクスが取り組むのは、肥料や農薬を一切使用しない「自然農」です。自然農とは、雑草も抜かずに刈ることで根を残し、土の中の微生物や虫たちの働きで、徐々に土壌が肥沃になっていくという農法のこと。小峯は過去4年間にわたり、植物の多様性や土壌の変化を観察することで、ビジネスにも通じる洞察を得ることができたと言います。
「ビジネスを野菜作りに例えるなら、とても長い時間をかけて土を育て、その上でようやく収穫できるもの」
収穫を急ぐと、来年のための種を取ることもできない。短期的な成果を求めるのではなく、長期的な視点で会社やブランドを育てていくことの大切さを、自然農が教えてくれたと小峯は語ります。
目指すのはハイブリッドな生き方
ノマディクスの「農の日」は、単なる農業体験ではなく、現代のビジネスと自然との調和を追求する試みでもあります。同社は「理想と現実のハイブリッド」を目指しており、自然農をビジネスの一部として取り入れることで、従業員のより豊かな暮らしを実現したいと考えています。
自分たちが作った野菜をコールドプレスジュースやフリーズドライの味噌汁などに加工し、従業員が購入できる仕組みを作ることなども視野にいれています。
集落としての会社 ― 新しいコミュニティモデル
輸入卸売を主な事業とする同社にとって、昨今の円安や国際情勢も決して看過できません。わずか3年ほどで急増した社員やその家族を守るためにも、自分たちの食べるものを自分たちで作るという選択は、必然だったのかもしれません。
ノマディクスは、会社組織として現代版の「集落」を復活させたいと考えています。従業員それぞれが役割を持って互いに依存し合い、助け合い、折り合いをつけながら築いている関係性こそ、かつての集落のそれと同じであると小峯は言います。
「農の日」は、ノマディクスが提案する新しい働き方と従業員の生活の在り方を探求する取り組みです。自分たちが生きるために必要なものを、自分たちの手で作り出す。その過程で得られる学びや気づきを、ビジネスにも活かす。同社が目指すのは、単なる企業の成長ではなく、社員一人ひとりの生活を豊かにし、企業全体としての調和を追求する新しいコミュニティの形です。
今後、ノマディクスがどのように「農の日」を進化させ、どんな未来が待っているのか。そして社員たちがどう成長していくのか。千代田も小峯も、それにとてもワクワクしています。
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