静寂な白銀の世界で自然と対峙する
2022年5月開催の沼津イベント (re)generate! では、渡辺洋一氏による 写真展『雪 森 – The Essence of the Winter Forest』を開催しました。イベントでは、各分野の第一人者やエキスパートをお招きし、トークショーやディスカッションを開催する中、渡辺氏には静かに語る写真という手段で、観る人に変わりゆく自然について問題提起ができるのでは、という期待から写真展開催を依頼しました。
森の中にみんなが集まれるような山小屋を作りたい
渡辺氏はスキーリゾートとして名高い北海道倶知安町に、自宅兼ギャラリー『ウパシギャラリー』を構えています。今回、渡辺氏ご自宅の庭をお借りして開催したポップアップイベントに合わせ、ポッドキャスト収録もウパシギャラリーにて行われました。
“蝦夷富士” 羊蹄山を臨むウパシギャラリーの大きな窓は、極寒地ニセコの冬に耐える三層構造。断熱効率と空気の流れを考えて設計されたこだわりのご自宅は、冬は暖かく、夏は風が抜けて心地よく、周囲の森の中に溶け込む山荘のような佇まいです。16年前の建築当時にはまだ珍しかった、エネルギー効率が高く環境負荷の少ない家をデザインしてくれる理想の建築家は、札幌の街を歩いて見つけ出したと言います。
「森の中にみんなが集まれるような山小屋をつくりたい」
渡辺氏が語った夢は、売却を渋っていた土地所有者の心も動かしたそうです。編集長 千代田も「兄貴分」と慕う渡辺氏の周囲には、自然と人が集まります。夢を語り、自らの足を使ってチャンスを掴みに行く渡辺氏のエピソードには、私たちも背中を押されるようです。
スキーを生業にして自由に生きる:写真家への転身
写真家に転身するきっかけは、まだ会社員だった20代の頃。札幌に転勤となった渡辺氏は、趣味のスキーを満喫すべく、大雪山やニセコに通いつめました。そしてスキーを生業にして自由に生きる友人たちと出会い、触発されたと言います。
その後、会社を辞めてアラスカなど世界中を旅し、大斜面を滑るスキーヤーを撮影した写真集『雪山を滑る人 – Gliders of The Snow Mauntains – 』を2009年に出版。人と雪との関わりを撮る写真家としてのキャリアがスタートしました。この当時の経験は、現在、冬の森をテーマに開催している写真展『雪 森 ー The Essence of the Winter Forest』シリーズの原点にもなっています。
中身を知ってもらうには、まず見た目から
2015年より渡辺氏が発行するスノーカルチャーマガジン『Stuben Magazine(スチューベンマガジン)』は、装丁や紙質など、渡辺氏の都会的なセンスが垣間見えます。スノーカルチャーが直面する環境問題など、本質的で深い記事をていねいな取材と上質な写真とともに掲載しながらも、「装丁で魅せて手にとって貰えなければ始まらない」として、アートディレクションにもこだわっています。
隣人に声をかけ、身近な自然を再生する
地域のキャパシティを大きく超えたリゾート開発により、ニセコエリアはいま雪も水も不足し、温泉資源も枯渇し始めています。地元住民の日常生活や自然環境に大きな負荷を与えるオーバーツーリズムの現状は、緊急の課題としてニセコ住民とそのエリアで遊ぶ人たちの目前に突きつけられています。
渡辺氏の提案は、まずは自宅や隣人の庭から未来のための行動を起こすこと。庭に生える草木を学んで理解し、土地や気候に適合した植生を育てていくことが、10年後の環境を作ります。ニセコの自然に憧れて海外の都市部から移住してくる隣人にも “おせっかい”に声をかけ、未来の庭を一緒に作っているそうです。
自然との共生を自分ごととして小さな行動を起こすヒントが、渡辺氏の言葉の中にあります。ぜひポッドキャスト全編でお楽しみください。
Stuben Magazine
ホームページ:https://stuben.upas.jp/
Instagram:@yoichiwatanabe_niseko / @stubenmagazine