スノーコミュニティから始まった脱炭素ムーブメント
「ずっとこのフィールドで遊び続けたいから。」
外遊びが好きな人なら、もっとも共感できるシンプルな動機から始まったスノーコミュニティの脱炭素ムーブメント「POW = Protect Our Winters(プロテクト・アワー・ウィンターズ)= 私たちの冬を守る」。プロスノーボーダー JEREMY JONESらが、2007年にアメリカで立ち上げたPOW(パウ)は、いまや日本も含め世界13カ国にその活動範囲を広げています。
トークショーは、一般社団法人 POW JAPAN 代表理事の小松吾郎さん、同団体アンバサダーでプロスキーヤーの大池拓磨さんと中島力さん、そしてファシリテーターに社会活動家の辻井隆行さんをお迎えし、4名の対談形式で行われました。
トークショー前半では、4名の経歴や日々の活動について、さまざまなエピソードの紹介がありましたが、Podcastでは割愛していますので、以下要約してご紹介します。
日本人と自然の距離感を縮めたい – 小松吾郎さん
POW JAPAN代表理事 小松吾郎さんが環境保護活動に興味を持ったのは、プロスノーボーダーとして活躍されていたカナダ在住時代。「オイルを撒き散らしながら雪上を走るスノーモービルに乗ってても、全然楽しくないと感じた」と言います。
その後、お子さんの誕生をきっかけに28歳で日本へ帰国。日本ではスノーモービルに乗らなくても、徒歩で行ける範囲にパウダースノーがありました。そして長く国外で暮らした小松さんだからこそ、日本の自然の豊かさや田舎の素晴らしさにも気づきます。「日本人と自然の距離感を縮めたい」という小松さんの思いと行動は、やがて2018年のPOW JAPAN 発足へとつながります。
小松さんのエピソードの中で印象的だったのは、現在のお住い(長野県大町市)を選んだ理由です。「親として自分の子供にしてあげられる最善のことは何か?」と考えたとき、「いい環境に一緒に暮らすこと」という結論に至ったのだそうです。「子供たちだけで歩いてスキー場や湖に行ける環境」を選んだことが、親から子への最良のギフトだと考えたと言います。
目指せスノーマン – 大池拓磨さん
ドレッドヘアーにターバン姿で登場されたのが、POW JAPANアンバサダー 大池拓磨さん。一見エキゾチックな風貌とは裏腹の、少年のように人懐こくてやさしい語り口が印象的でした。
スキーやスノーボード、雪板など「雪質によって乗り物を換えると極上を味わえる」と語る大池さんの目標は「スノーマンになること」。アクティビティ主導ではなく、四季や天候など「自然の都合に合わせて遊ぶ」ことを大切にされています。またガイドとして「人が自然から刺激を受けている瞬間を見るのも喜び」だと言います。
一方で、「自身の活動が自然を壊しているのではないか?」という葛藤もありました。それをクリアにすべく旅立ったのが、環境先進国ニュージーランド。仲間たちと一ヶ月半「環境に負荷の少ない生活」を実践します。ソーラーパネルと蓄電池を使ったキャンプ場での生活、そして畜産業のCO2排出量が高いことから「肉を食べる生活をやめる」ことにも挑戦。ニュージーランドの旅以来、大池さんはご自宅用に肉を買わなくなったそうです。
今すぐ10分でできること – 中島力さん
続いて5月なのに真っ黒に日焼けしたお顔が印象的だった中島力さん。トークショーの数日前に立山のコルで雪上キャンプをされたそうです。アドベンチャー要素の高い山行への挑戦を続けていますが、できるだけ「動力を使わずにアクセスすること」にこだわり、徒歩で何時間もかけてポイントを目指します。
中島さんからは「再生可能エネルギー電力会社への乗り換え」という、今すぐ10分できることへの提案がありました。中島さんは、神奈川県小田原市の耕作放棄地を再生した「ソーラーシェアリング」の電力会社を応援しているそうです。ソーラーシェアリングとは、ソーラーパネルを田畑の上に設置し、作物の光合成と発電で日光量をシェアするもの。農業と売電というダブルインカムにより、農家は農業を続けることができ、農家と地域の自立も応援できます。
いまやプロアスリートの中島さんのエピソードで驚いたのは、子供のころは重度の小児喘息で、3歳までずっと入院していたということ。「空気のきれいな環境でないと生きられない、パフォーマンスを発揮できない」という切実な事情が、自然の中に入るきっかけになったそうです。
辺境の声の小さい人たちの声を聴く – 辻井隆行さん
そして、司会進行の手綱を握ってトークショーをリードしてくださったのは、社会活動家でソーシャルビジネスコンサルタントの辻井隆行さん。豊富な知識と経験に基づく巧みな質問とフォローで、トークショーを盛り上げてくださいました。
辻井さんは、97年に一周したカナダのバンクーバー島で、クリアカット(皆伐)された森を目の当たりにします。そして、その木材の大半が日本へ輸出されていることを知り、さらにショックを受けます。
また、03年に遠征したグリーンランドでも、アザラシやセイウチなどを食べるイヌイットのお母さんの母乳から、水銀が検出されていることを知ります。これはヨーロッパの工業排水が原因で、「辺境の声の小さい人たちや自然が脅かされている」と懸念を強めます。
そんな原体験もあり、現在の辻井さんは、企業の環境破壊や労働力の搾取に対し、それを逆転させ再生させることへの提案やコンサルティングを本業とされています。
アウトドア愛好家として今できること
他の先進国に比べ、脱炭素への取り組みが後手になっている日本。レジャーと気候変動対策という、一見利害が衝突しそうな関係性において、「何も対策していないのはむしろカッコ悪い」という『空気感』を作り出したこと。さらにそれをスノーコミュニティの常識に変えたのは、まさにPOW JAPANの功績と言えます。
Podcastでは、トークショーの後半部分、小松吾郎さんらによる POW JAPANの活動紹介プレゼンテーションから音声のみ抜粋してお届けします。
プレゼンテーション冒頭で紹介されているPOW JAPANの活動紹介動画はこちらからご覧ください。
プレゼンテーション資料(PDF)は下記ボタンよりダウンロードできます。
ぜひ、小松さんの熱のこもったトークと併せてお楽しみください!